私たちは、未来の放送システムを予想して、以下のようなイラストを作りました。
本稿は、このイラストに記載した未来についての連載第2回です。
※ このイラストは、Creative Commons BY-NC-SA の条件下で、ご自由に配布いただくことが可能です。
これまでの放送システムとそれを取り巻く法律は、電波を使って音声や映像を多くの人に届けることが可能な技術の登場で、その技術を有効に活用するための仕組みとして生まれたものです。
しかし現在、インターネットの登場に加え、一般的に利用可能なAIの登場によって、可能な事が大きく変わりました。
今こそ、これらの技術を有効に活用し、多くの個人や企業のためになるシステムを、法体系を含めて再構築するべき時です。
前回の第1回では、これからは、番組提供者が個人に届ける番組を選ぶのではなく、個人所有のパーソナルアシスタントAI (PAI) がその役割を担うようになることを説明しました。
今回の第2回では、このような時代になったときに起こる個人の情報取得体験向上に結びつく、4つの重要な変化 についてお話しします。
(1つ目は、前回述べたことと同じです。)
これまでの番組表は、多くの視聴者に同じコンテンツを届けることを目標に、各放送局が編成してきました。
しかしPAI(パーソナルアシスタントAI)が利用可能な世界では、PAIが個人の好みや活動を考慮した個人用の番組表を自動的に作るようになります。
しかもその番組表にはテレビ局が送出す番組のみならず、インターネット上の多くの情報源から収集された内容も統合されます。
例えば、インターネット上には大規模な番組プールが構築され、そこからPAIが個人の要件に合わせて情報を採択するようなイメージです。
これにより、番組提供者にとって、自分たちが提供するコンテンツを、広大なインターネット空間で、PAIに見つけてもらうことが重要となります。
PAIは個人の代わりにコンテンツを事前に視聴して一つ一つチェックします。これにより、可能な限り高い精度で個人が好む番組を選択できるようになります。
さらに、個人にとって興味がなさそうなコンテンツを無視したり、不安な内容や激しすぎるシーンを事前にフィルタリングしたりすることが可能になります。
例えば、多くの人にとって心温まるドラマであっても、ある個人にとってはその経験から、つらい視聴となることがありますが、これをPAIが前もって警告し、避けられるようになるのです。
PAIの力を使うと、個別の観覧者にあわせてコンテンツを変更することが可能になります。
たとえば、小学生向けの説明を追加したり、歴史番組を去年の入試問題と照らし合わせ、相関する場所をハイライトしてクイズ化する例も考えられます。
その個人が何度も見たニュースを、PAIが判断してスキップすることも可能になります。
コンテンツを変更する場合には、著作権に関する問題を考える必要があります。私は著作権の専門家ではありませんが、ここでは私の考えをお話ししたいと思います。
例えば、参考書にマーカーを付ける行為はコンテンツの変更にあたりますが、通常は問題となりません。それと同様に、映画を観ながらその評論サイトやSNSなどから関連情報を得ることも一般的に問題とならないでしょう。
さらに、スマートグラスを使用して、視聴中の映像に自動で翻訳字幕を重ねて表示することも問題にはなりません。一方で、自分の好みに対応して早送りやスキップを行うことも正常な視聴方法の一つと考えられます。
今回提案する新しい放送システムでは、コンテンツを改変する役割を担うのは、個人所有のパーソナルアシスタントAI(PAI)です。このAIは、個人の道具として機能するもので、AI自体に人格はなく、視聴者自身の行為とみなされるでしょう。
これらの行為は、コンテンツの配信元がコンテンツを改変する形で行った場合には、明確な著作権侵害になることですが、この例では、結果として個人が自分のために行っていることから「私的使用のための複製」として承認される可能性が高いと考えられます。
PAI(パーソナルアシスタントAI)は、エッジデバイスで動作します。その結果、インターネットから情報を集めることはあっても、改変前後のコンテンツをクラウドにアップロードすることはありません。
結果として、不特定や多数の相手に公開するリスクは無くなります。
当然のことながら、コンテンツの提供元が、このようなシステムでの利用を禁止する目的でコピーガードをかけているのであれば、問題となります。
しかし、後の連載で述べますが、新しい放送システムでの適切な収益化の仕組みが構築されることで、ライツホルダーの立場から積極的にこのような利用を望むようになる可能性があります。
第1~第3の変化によって、コンテンツを公開する側は、必ずしも万人受けするコンテンツを作る必要がなくなります。
PAIの利用を前提とした場合、その個人にコンテンツを提供するかどうかの判断は、コンテンツを公開する側ではなく、その個人向けの番組表を作成するPAIの責任となります。
この変化が重要で、多くの視聴者にとって「万人受けする当たり障りのない」コンテンツは退屈になりがちですが、この問題を回避できるのです。
PAIが活用されれば、特定の層に不快感を与えるような内容で、従来ならばクレームの対象となった部分をPAIが自動でフィルタリングしたり、意図が正確に伝わるように言い回しを調整したりすることが可能になります。
こうした仕組みにより、番組自体が今よりもずっと面白くなるはずです。
現在のインターネット上のメディアは、不特定多数をターゲットにした従来のテレビ放送に対して、個人の嗜好を統計的に分析し、よりパーソナライズされた形で発展してきました。
しかし、個人情報保護の観点からクラウド上で個人の詳細な情報を管理することは難しく、情報提供の精度を最適化するには限界があります。
この状況を打開するのが、エッジデバイス上で動作するPAI(パーソナルアシスタントAI)です。
PAIは、PAIの所有者である個人の管理下で、個人情報を詳細に把握しながら、より個人に適したコンテンツを選択し、個人が好む形に加工します。
その結果、著作権の問題を回避しつつ、個々のニーズに最適化された情報が提供されるようになります。
また、コンテンツ制作者にとっても、視聴者からのクレームを過度に気にせず、クリエイティブな自由を活かしたコンテンツ作成が可能になるという利点があります。
次回は、このような放送システムを実現するための、技術について解説します。
また、それ以降の連載では、以下のような内容を考えています。
■このシステムにおいて、日本のテレビ局が世界のネット企業と肩を並べて収益を上げるための仕組み
■このシステムによって困る人達を、救済するための仕組み
次回連載は、4月下旬の予定です。
※ 連載予定内容はが変化しております。ご了承ください。
※ 本稿の内容は、いずれも、弊社が信じる未来の予想に基づくもので、事実であるとは限りません。
2025年2月 株式会社トラフィック・シム
多くの方から伺ったお話や、各種ニュース記事、海外で見てきた業界の動向などから、放送の未来を予想してみました。
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